ローカライズ
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ゲームのための機械翻訳を使った取り組み
支援ツールを使用した翻訳は、過去数十年の間に大きく進化してきました。機械翻訳はゲームローカライズの究極の目標のようなもので、実現したら処理の高速化、および引き受けられる仕事量の増加が見込まれていました。
しかしその完成までには、人間の言葉が関わるあらゆる取り組みと同様に、紆余曲折がありました。イディオム、地域のスラング、人間のコミュニケーションの特殊性などを、人間以外が正しく理解するのは困難です。目標は明確ですが、現在のレベルにまで成熟するまでには、長年にわたるトライ・アンド・エラーがありました。そして現在も、まだまだ人の手を必要としています。機械翻訳(MT)の歴史、MTが導入されるまでの道のり、そして今後のゲームにおけるメリットと課題についてご紹介しています。
従来、人間の手による翻訳・編集・校正は、時間と手間を要する手作業で行われており、チーム内の翻訳者と校正者の比率は2:1でした。
初期のMTは、政府出資によるものが大半でした。この70年の間に莫大な投資が行われたことでMTシステムは進化を遂げ、最近ではディープラーニングやニューラルネットワークを取り入れた開発により、精度と信頼性が向上しています。
ニューラル機械翻訳エンジンを利用すれば、脳の言語ルールを模倣したニューラルネットワークを使用し、文章を部分部分で区切るのではなく、一度に文章全体を翻訳することができます。その結果、より正確で人間らしく読みやすい高品質な翻訳が出力可能です。
MTを使用するメリットは明確で、より多くの文章をすばやく翻訳できることです。 これにより、複雑かつクリエイティブな翻訳(例えばゲームのコンテンツなど)をする時間を確保できます。また、プロの翻訳者にとっては、従来の人力による翻訳方法と比較して、より大量かつ迅速にポストエディットを行うことができるため、生産性の大幅な向上が期待できます。従来の翻訳・校正ワークフローを機械翻訳を利用するポストエディットやサンプルレビューのワークフローに置き換えることで、時間短縮だけでなく、コストの削減も期待できます。
私たちはいち企業として、常に業界のトレンドと技術開発の先頭に立ち続けることを目標にしてきました。これまでも、急速に変化する MTの性能については多くの議論と分析を行っています。ニューラル機械翻訳エンジンの普及により、パートナーもその恩恵が受けられることから、私たちは機械翻訳を自社のプロセスに取り入れることにしたのです。
当初は、社内チームの生産性を高めるためのツールとして、社内連絡や社内文書、不具合レポートなどを、MTで日本語から英語、あるいは英語から日本語に翻訳してテストしていました。
最初のうちはある特定のMTプロバイダーに時間と労力を投資していましたが、何度かテストしているうちに、特定の言語ペアやトピックでより良いパフォーマンスを発揮するMTエンジンがあることに気づいたのです。
その後開発チームとプレイヤーサポートチームの間で内部コミュニケーションをとりながら、複数のエンジンを6つの言語でテストしました。
テストで正確さ、流暢さ、エラーの数、ポストエディットを必要としないセグメントの割合、頻出するエラーの種別といった各要素においてデータを収集・分析・考察を行った結果、私たちがテストした様々な言語の組み合わせにおいて、優秀なエンジンを上位4つに絞り込むことができました。 また、より手軽でカスタマイズ可能な、即座に利用できるエンジンにも労力と時間を費やして実験しました。
言語に関係なく1つのソリューションですべてをまかなう方が簡単で複雑ではないかもしれませんが、言語ひとつひとつで提供する翻訳の品質を妥協したくはありません。そこで、テキストの種類と対象の言語の組み合わせに最適なエンジンを用いた、オーダーメイドのワークフローを作ることにしました。
私たちは1つのエンジンだけに依存せず、言語やテキストのスタイルに合わせて適切なエンジンを選択する自由と柔軟性を保ちます。つまり、以前なら不可能だった、様々な言語における様々なタイプのゲームプロジェクトに対応できるようになりました。
PTWの技術チームはMT導入に深く関与しており、データのキュレーション、エンジンのトレーニング、導入を支援するだけでなく、必要に応じてエンジンと既存ツールを接続したり、新しいツールを作成したりしています。また、ヨーロッパ言語とアジア言語の両方において、品質アセスメントと評価に時間と資金を投資しています。投資の内容には、スタッフのトレーニング、エンジンのトレーニング、ポストエディットと評価で必要となる人手についてのデータ照合・キュレーションが含まれます。
私たちのプロセスは、エンジンのカスタマイズや品質テスト、特定のゲームやシリーズに適したエンジンと各言語のマッチングといった、 パートナーのローカリゼーションワークフローに合った適切なMTソリューションを設定し、実行することです。
選んだエンジンにトレーニングを行い、関連するCATツールやTMSへシームレスに接続します。ワークフローの最後には、ゲーム専門の言語スペシャリストによるポストエディットが行われ、求める品質に達しているか確認が行われます。
私たちがMTツールへの投資する一因となったのは、MT技術の発展とニューラルMTがもたらした大幅な翻訳品質の向上です。この投資が功を奏し、生産性の向上や作業時間の短縮を実現することができました。しかし、まだまだ改善すべき点は多く、さらなる活用の機会も多くあります。
現在、MTソリューションを活用し、プレイヤーサポートチケットを迅速かつ効率よく翻訳する社内ツールを立ち上げているところです。これにより、プレイヤーサポート担当者が母国語以外のチケットに回答できるようになり、特定の言語のチケットが急増した場合でもサポートチームを最適化することができます。
ゲーム翻訳市場の拡大に伴い、フィンランド語やトルコ語など、それほど一般的でない、またはリソースが少ないことを理由に 、従来はゲームローカライズに適さないとされてきた言語にもMTを活用することになるでしょう。
また、アジア言語間の翻訳(日本語から簡体字・繁体字中国語、簡体字中国語から韓国語など)にもMT を導入し、高品質な機械翻訳出力を目指しています。テストはまず社内文書から始めますが、ツールが改良されればゲームコンテンツにも重点を移していく予定です。
機械翻訳がいくら発展したとしても、ある言語で書かれた原稿をアルゴリズムに入力するだけで、完璧に翻訳された文章が出力される、というような地点には到達できないかもしれません。人間の言葉は絶えず急速に変化し続けるため、この目標地点に到達するのはほぼ不可能であるように思われます。しかし、現在のMTの技術レベルにあってもそのメリットは明らかです。過去の成果の上に新たな成果を積み上げていくことで、さらなる発展が見込めることでしょう。