ローカライズQA
LABメインページに戻る
LQAの日常の業務内容 ゲームテストにおける言語品質の評価方法
成功しているゲーム作品には、没入感のあるストーリーと記憶に残るキャラクターに支えられているものがたくさんあります。でもプレイヤーの没入感が台無しになることがあります。その理由として一番よくあるのは、ローカライズの品質の悪さです。変なセリフから始まって、字幕の内容とそれに対応する吹き替えが全く違う… プレイヤーはすっかり冷めてしまいます。
適切なリソースが無いことには、大半のゲーム作品がこうした避けがたい問題に苦しめられることになるでしょう。RPGやテキストの多いゲーム作品を、1つのタイポや見落としもなしに壮大な脚本を書き上げるのは至難の業です。脚本家は最後の見直しをゲームについて自分で行わないことも大事です。外部のエディターの方が間違いに気づきやすいことが知られています。
ローカライズ 品質保証(LQA)の内側を見てみましょう。このチームのテスターたちは、ゲーム作品内の言語に関係した問題を全て探し出す役割を担っています。チームが対応する問題は、文化的矛盾から不自然な表現、テキストの表示の問題、その他にもたくさんあります。
LQAが行うのは文章の校正だけではありません。最終的な製品の言語品質を最高水準に高めるために注意しなければならないことが何点かあります。テストの過程で見つかる言語的な問題をここで紹介していきます。
つづりや句読点の問題などの単純な「言語的不具合」の修正は比較的簡単といえます。しかし、ゲーム作品のテキストファイルからは見つかりません。ゲームを進行させて、実際にプレイヤーがするのと同じような状況でテキストに向き合います。この方法を使えば、誰が話しているか、このテキストが出てくる前にどんなイベントが起こっているか、UIやダイアログボックスなどの中でセリフがどのように表示されているのかなど、十分に情報を得た上で作業できます。
個々の間違いはとにかく、一貫した文法規則を適用する方法についてもテスターたちは合意を形成する必要があります。よく議論になる内容には、“and”の前にコンマは必要か、句読点は引用符の中か外か、などがあります。 修正の方針を統一するため、LQAチームは大抵の場合対象言語で使う辞書について取り決めを行います。例えばアメリカ英語ではウェブスター辞典を使うなどと決めます。でも、当然ながらもっとカジュアルな言葉遣いが重視されるゲーム作品がたくさんあり、そういったものに対しては辞書の方針が必ずしも正しいとは限りません。そうした問題については周りのテスターたちとこまめに議論していきます。問題について議論を深めた分だけ、品質の向上につながります。このように、日々の業務においてはチームワークがとても重要です。
ゲーム開発チームが脚本家や翻訳者、QAチームにスタイルガイドを提供する場合もあり、とても重宝します。三点リーダの形式をどうするか(セリフの休止を表すのによく使われる)、うめき声やその他の声の上げ方をどのように書くか(“aaaaaahhhhhh”はアリか、それともaやhの数を減らすべきか)などにルールを作るかもしれません。造語やスラングの扱いは厄介な場合もあるので、扱い方にガイドラインがある場合もあります。例えば、実際にある単語にすごく似たつづりの造語がゲーム内に登場するとして、プレイヤーがこれを意図的なものだと受け取ってくれるか、タイポだと思われるかを考えてみる必要があります。
世界規模でリリースされるゲーム作品の数は増える一方ですが、 作品によってはもっと限られた地域を対象にして作成されています。ブラジルポルトガル語や中南米スペイン語を話すプレイヤー向けに作られている場合もあれば、ヨーロッパポルトガル語やヨーロッパのスペイン語を話すプレイヤー向けのものもあります。言語のバリエーションによって使われるつづりや表現が違うことにLQAは充分注意しなくてはいけません。
セリフが合っていなかったり、 表現が不自然な場合、 テスターは修正する必要があります。これは直訳やスラングの間違った使い方の結果であることが多く、翻訳者が十分な文脈を把握していない場合に特に起こりがちです。LQAチームにネイティブスピーカーを入れれば、対象言語で表現が可能な限り自然なものに近付けられます。今までに聞いたことが無いスラングに遭遇することもあります。でも、それはゲームのプレイヤー層になっている人たちの間ではよく使われているものだと分かったりします。こうした場合、悪名高いUrban Dictionaryを(よく気を付けて)使ったり、特定の社会集団で実際にどんな使われ方をしているかを確かめる必要があります。
最後に挙げる点として、文化的レファレンスにはよく気をつける必要があります。アメリカで作られたゲーム作品でアメリカの政治に関するジョークが飛ばされていれば、日本のプレイヤー向けに対応するものを探さなければいけません。そしてその逆もあるでしょう。
LQAテスターがゲーム作品全体をよく知っている場合、キャラクターの名前やゲーム内の場所のつづりが一貫していないことにすぐ気づきます。また、ある言語から他のある言語に翻訳するときに、ある表現について定訳といえるものがなかったり、単語1つに複数の訳し方があることがあります。例えば、あるゲーム作品に登場するキャラクターの「耐久」スキルがレベルアップできるとして、これが言語によっては「スタミナ」とも「根気」とも「忍耐」とも訳せて、そのそれぞれに独立した意味があることもあります。翻訳が一貫性なく行われると、同一のスキルを指すときにそっちこっちのメニューで複数の単語が使われる可能性があり、当然プレイヤーは混乱させられます。まとめると、ゲームプレイをそのものを楽しむよりもゲームの意味的な面の理解に時間が取られる状態は良くないということです。
あなたが熱心なゲーマーで、あるゲームシリーズについて造詣が深いとすると、シリーズ全体と矛盾する内容を見つけることがあるかもしれません。ストーリーの欠陥はミーム文化において歓迎されるものですが、ゲームのストーリーの説得力を低下させるものであることは間違いありません。残念ながら、ゲーム内のあるシーン全体を占めるような大きなストーリーの欠陥についてLQAができることは多くありません。でも比較的小さな矛盾を見つけて修正することは可能です。例えば「100年前、王国は滅亡した」と誰かに言われた後に、別の人に「それは80年前だった」と言われたら、最終的な製品としては一貫性がなく、粗悪なものになってしまいます。テスターがこうした細部を直すことができれば、出来上がりのゲームのセリフも満足のいくものになります。
同様に、単語や文の誤訳が原因で2人のキャラクター同士の会話が噛み合わないことがあります。こうした問題に対処する上でも、LQAテスターはゲームを隅々まで知っておくことが大きなアドバンテージになります。たしかな知識があれば、個々の文章が文法的に正しいかだけでなく、文脈の中で意味が通るかどうかも判断できます。
声の演技を含むゲームでは、LQAの際に音声周りを重点的にチェックします。時には意図的に吹き替え(VO)と字幕の表現を変えることがあります。例えばキャラクターがとても速くしゃべっていて、画面の文字が読み切れない場合がこれに当たります。この場合は字幕を短くするのが適切な対処法です。しかし意図しないにも関わらずVOと字幕が乖離しているのは望ましくありません。
例として、ある種のスタイルは書き言葉ではわかりやすくても、声に出すと不自然になることがあります。イタリック体の使用などがこれに当たります。この場合、声優が微妙に表現を変えて、より自然な発話になるように調整することがあります。もし声優が違う単語を強調しているなら、字幕にもそれを反映させた方が良いでしょう。例えば台本に「おい、謝れよ」と書かれているのに、録音したVOは「おおーい、謝れよ」となっていたとします。LQAで字幕を「おおーい」に変更すれば、音声と字幕から受け取る印象がほとんど同じになります。.
こうした細かいことは重要でないように思えるかもしれませんが、プレイヤーの没入感を阻害する実例なのです。ゲーム体験からゲームシステムに注意がそれてしまうと、それだけで気分が損なわれてしまいます。
LQAテスターはそれぞれ過去に扱ったタイトルに大きな違いがあるため、ローカライズ品質保証はここに書かれた以上に複雑です。さらに付け加えればテキストのはみ出し、文字化け、グラフィックの配置ミスなど、表示の問題にも日常的に対処する必要があります。しかし確かに言えることは、専門の言語テスターのチームを設置することは、将来のプレイヤーにとって混乱やストレスを減らすことに繋がります。文章化されたセリフ、VO、ストーリー全体など、チェックの対象がなんであれ、注意しなければならない問題点が存在します。LQAテストが適切に行われれば、ゲームの体験は確実に良いものになるでしょう。