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自動化の導入: QA、ローカライズ、プレイヤーコミュニティを形成する5つの現実
30年近くゲームビジネスに携わってきた私たちは、長年にわたって学んできたことの一部をこの業界に還元し、恩返しする責任があると考えています。今年6月にアムステルダムで開催されたGame Quality Forumにおいて、当社のプレイヤーサポート部門シニアディレクターのNeil Long、ローカライズ&LQA部門グローバルディレクターのMaxim Mizin、プレイヤーコミュニティ部門グローバルヘッドのNee Nguyenの3名が、「自動化の導入:QA、ローカライズ、プレイヤーコミュニティを形成する5つの現実」と題したプレゼンテーションを行いました。
このプレゼンの背後にあるアイデアは、PTWがAIと自動化をいかに取り入れ、QA、ローカライズ、LQA、プレイヤーサポート、およびコミュニティ運営の効率とスピードを高めているかを、オーディエンスと共有することでした。AIと自動化の導入は各々異なった段階ではありますが、とにかくこの講演の目的は、一連のツールやソリューションを通じて、自動化がいかにプロジェクト管理を合理化し、問題に対処できるかを共有することです。これらの導入により、処理時間が短縮され、最終的にプレイヤーの満足度を高められます。
自動化の最も明白なメリットの1つは、プレイヤーサポートとQAにおけるチーム全体の応答時間を短縮できることです。自動テストフレームワークがいかにテストケースを素早く実行し、バグやパフォーマンスの問題を効率的に特定するか。そして、より迅速なバグ解決とゲームリリースを実現するか。私たちはそういったケースを何度も目にしてきました。「自動化によって、チケット管理と、チャットボットによる一般的な問い合わせが合理化され、ユーザーにセルフサービスオプションを提供できます。このため応答時間が短縮され、ユーザーの満足度向上につながっています」とNeilは言います。「また、アクションの信頼性が高く、反復可能な特定のタイプの契約の自動化に、RPA(ソフトウェアロボットによる業務自動化)が使用され始めています」
Maximも同意します。「AI搭載の機械翻訳ツールは、コンテンツをより迅速で正確に多言語へ翻訳する助けとなります。通常はローカライズ対象として考えられていない言語まで、その対応範囲を拡大できるのです」これはLQAに直接影響するので、品質コストを削減できます。自動化された迅速なLQAチェックは、翻訳の欠落や書式の問題、用語の不統一や、その他の一般的なエラーの特定を助けます。「こういったツールは、テストケースやバグレポートの作成など、日常的なテスト業務の効率も大幅に改善します。リモートのチームも含め、メンバー間の知識伝達のスピードを上げられるからです」
Neeは、モデレーションチームの業務における「重大なネガティブワードを特定し、削除する」という工程を自動化すれば、手作業でのモデレーションの手間を大幅に削減できると説明しています。(モデレーション:ネット上に投稿されたコメントを、コンテンツ管理者がチェックする工程やシステム)これは、コミュニティ運営部門が多忙になりがちな、ローンチやアップデートなどの時期には特に有効です。「スマートオートメーション(スマート化)というものがあります。例えば、AIによるFAQへの気の利いた回答などは、プレイヤーとの間に、個人個人に焦点の合った楽しいコミュニケーションを生み出せます」と彼女は言います。「また私たちは、モデレーションやモデレーターのサポート、プレイヤーのエンゲージメントや楽しさの向上に大きな焦点を当てています。それで現在、コミュニティ運営のタスクと機能を拡張・合理化するために、Discordのbot群を構築しているところです」
個人の手法やタッチというものは、いつの時代においても重要です。自動化がもたらすものに適切に対処するため、私たちはより優れたツールや能力を備えたスタッフのスキルアップに重点を置いています。「自動化によって、サポートエージェントは、共感的なコミュニケーションや問題解決、個人個人に合わせたサポートの提供といったスキルの開発に集中できます」とNeilは言います。「QAのプロフェッショナルは、自動テストフレームワークと効果的に連携して複雑な問題を分析し、自動化が提供できるもの以上の洞察を提供するために、データ分析や機械学習、AIプログラミングのスキルを習得しなくてはなりません」
時代の流れとともに、1次請けのエージェントが行う定型業務は自動化に取って代わられ、より複雑な問題やその解決には、人間の力が必要とされるという可能性があります。「"プレイヤーサポート自動化マネージャー"など、より技術的で戦略的な役割を担う、新たな役割が登場するかもしれません」とNeilは続けます。このポジションは、自動化ツールの選択・導入・管理をはじめ、ワークフローの最適化や、システムの円滑な機能の確保などを担当します。「このポジションには、強力な技術的バックグラウンドと分析スキルが必要です。また、効率的で信頼性の高い自動化やソリューションを提供するために、技術的および非技術的な利害関係者と、効果的に協力する能力も求められます」
AIは、ローカライズとLQAにスピードと効率をもたらすでしょうが、その実作業にはまだ人間の手が必要です。「ローカライズチームは、より高いクリエイティビティが必要なコンテンツや、より物語性の強いコンテンツに専念する時間が増えるでしょう」とMaximは言います。「自動化によって生み出された翻訳が文化的に適切であるかを検証するために、個人の文化的認識はさらに重要なものとなります」LQAも適応しなくてはなりません。「すべての言語的問題を捉えるセーフティーネットチーム」というだけでなく、現地のユーザーがゲーム内で期待に沿った体験を得られ、ゲーム内のあらゆる場面でネイティブで自然な感覚を得られるようにする役割へと変わるのです。
「このポジションには2つの側面が求められます。1つ目は、高い言語能力と文化的知識を持つ編集者のような役割です。自動化によって生成された結果をレビューし、修正するのです」とMaximは続けます。「2つ目に求められるのは、AIや機械翻訳ツールがどのように機能するのか、またどのように改善されトレーニングされるかについて深く理解する、技術的スキルです」データ分析やデータキュレーション、データ収集は、今後必要とされるスキルセットの一つとなるでしょう。これらを自動化した際の品質は、提供されるデータ次第となるからです」
Maximの見立てでは、ローカライズのプロジェクト管理チームは変貌を遂げることとなります。タスク分配、フォローアップ、納品といった多くのルーティンが自動化されたことで、プロジェクトマネージャーは、エンジニアリング部門や開発部門、マーケティング部門との連係を含む、より複雑で部門横断的なプロジェクトやタスクに集中できるようになります。「チェンジマネジメント(組織内の大きな変革時に、効率を向上させたり環境を整えたりして、組織を成功へ導くマネジメント手法)と適応力は、どの職務においても極めて重要です」と彼は説明します。「AI技術の進歩のスピードに伴い、変化に対して柔軟に対応するスキルが求められています。問題をテストするだけではなく、そして異なるチーム間で "バグのピンポン"をすることもなく、その場で問題を修正し、翻訳を改善できる言語スペシャリストとなるLQAの需要は、すでに高まっています。そのためには、言語能力を増強し、こういった業務に適した人材を確保する必要があるのです」
またモデレーションといった、コミュニティ運営の労働集約的なタスクを自動化すれば、コミュニティマネージャーやモデレーターは、より高度な能力やスキル習得に専念できます。Neeは言います。「モデレーションツールやボットなどは今後構築されていくでしょうが、ダッシュボードや管理システムといった、バックエンドでの人の手による管理は、依然として必要でしょう。つまりモデレーターやコミュニティマネージャーは、自動化に関する技術的知識を学んだり、ゲームコミュニティに関する知識の広げたり、自動化機能の構築と適応を学んだりすることが求められるということです。そして結果的に、コミュニティに対して最適化されたサポートを提供することに、スキルを集中できるのです」
AI主導の自動化が語られる時、その語り手が抱いている究極の狙いは、人間の能力の増強です。「自動化が、プレイヤーのサポートチケットの優先順位づけや、問題の分類、初期対応を行うようになれば、サポートエージェントは、その専門知識や共感力や、戦略的な意思決定を必要とする、より重要で複雑な問い合わせに対応できます」とNeilは言います。「人間のエキスパートは、革新的なテスト戦略を設計し、探索的テストを実行します。複雑な問題を分析し、自動化によって発見できるもの以上の洞察を提供することによって、最高レベルのゲーム品質の保証ができるのです」
Maximも同意します。「自動化によって、ローカライズ業務における、よりクリエイティブな面に集中できるようになる可能性が大いにあります。私の経験からいって、言語スペシャリストというものは、パッチやゲーム拡張のたびに凡庸な整合性チェックをしたり、同じメカニクスの文字列を何度も翻訳したりするのは好きではありません。ですが今は、キャラクターの口調などをデザインし、語りの運びをスムーズにするなど、文脈におけるユーザー体験に焦点を当てて、それらを臨機応変に改善することに、もっと多くの時間を費やせるようになりました。ローカライズのエキスパートなら誰でもワクワクするはずです」
Neeはまた、このメリットが広く行き渡ることを期待しています。「自動化によってコミュニティの安全が維持され、コミュニティチームはより質の高いプレイヤーの参加や会話や、つながりに集中できます。自動化はまた、重大かつ報告すべき問題を選別し、緊急かつ優先に対応するためのフラグ立てを助けます。ですから、コミュニティチームはより集中的で共感的で、真に反応的な関与ができるようになるのです」
コミュニティ運営とは、人々と常にリアルな関係性を築いていくことです。依然としてこれが最優先事項であることは変わりません。Neeは語ります。「直接的な会話やつながりによるコミュニティの構築が鍵となる初期段階では、これは特に重要です。どんなに自動化しても、コミュニティの基盤となる1対1の会話や、ジョークや、ストーリーの共有が必要だという点は、何にも代替できないものです」
ゲームがさらにグローバルにプレイされるようになるにつれ、迅速な多言語サポートが必要とされています。自動化により、即時応答が可能になります。プレイヤーの問い合わせを翻訳でき、さまざまな言語的背景を持つプレイヤーと効果的にコミュニケーションできるようになります。「自動化された言語品質保証ツールは、翻訳の検証や、文化的な関連性の確保、ローカライズされたコンテンツのエラーや不一致の検出をサポートします。ですから、さまざまな言語バージョンにおいて、ゲームの全体的な品質を向上できるのです」とNeilは言います。「私たちはプレイヤーサポート部門のローカライズ業務で使用されている技術を活用し、人の手によるポストエディットサービスを備えた独自の機械翻訳ツールを開始しました」
Maximはまた、高度なAIアルゴリズムがいかに文脈をより理解でき、より正確な翻訳結果をもたらすかを見てきました。「例えばですが、AIはシーンの文脈に基づき、"bank"という語が「銀行」を指すのか、それとも「岸辺」を指すのかを区別できるのです。AIツールは、原語のコンテンツとローカライズされたコンテンツの両方の感情を分析し、ローカライズされたコンテンツが原語のコンテンツと同じトーンと感情を維持していることを確認します。エキスパートによるレビューは依然として必要ですが、ツールによって作業はより簡単にすることができます」
Maximは、自動化がローカライズのワークフローを管理し、人間の翻訳者や、機械翻訳ツールにタスクを割り当て、進捗をトラッキングし、完了したタスクを次のステップに移すというプロセスにワクワクしていると話します。「自動化はすでにゲームを通して、画像やムービーによってコンテンツを記録しています。AIが追加されたことで、ゲームは、重複や欠損や、翻訳されていないテキストなど、実装上の明らかな問題がないかどうかも分析されるのです」
オーディエンスのサポートや管理は、AIが影響を与えるとは思われない分野かもしれませんが、ここにもメリットがあります。「自動化によって、コミュニティ主導のサポート・プラットフォームが促進されます。プレイヤーはよくある質問への回答を見つけたり、仲間と交流したり、ナレッジベースに寄与したりできるようになります」とNeilは語ります。「このことは、プレイヤーコミュニティにおけるエンパワーメントと協力の意識を育みます」自動化ツールのおかげで、プレイヤーがゲームの品質向上に積極的に参加し、QAチームに貴重な洞察を提供できるようになりました。ゲームのバグ報告やフィードバックを可能にすることで、プレイヤーコミュニティにパワーが与えられることとなったのです。
「ゲームのテレメトリ(遠隔測定法)を通じて得られる、プレイヤーの行動に関するデータは膨大です。これは多くのゲームの基準になりつつあります」とMaximは同意します。「これの主な目的は、ゲームの機能や仕組みに関するユーザーの行動の調査ですが、ローカライズされたバージョンで観察された行動を評価する場合もあります。例えば、ある地域のプレイヤーが、ゲーム内のあるゾーンをスキップする一方で、他の地域のプレイヤーがそこで多くの時間を費やすのはなぜか?ローカライズされたユーザーグループに合わせてコンテンツを調整する機会は多いので、データの処理と分析には自動化が役立ちます」
Neeはまた、自動化がいかにプレイヤーコミュニティを豊かにするかも見ています。「効率化されたフィードバック フローで自動化することで、開発者はプレイヤーの声を聞き、それに基づいたアクションを取れます」と彼女は明かします。「ゲームのバックエンドにおける自動化されたデータ収集は、不正行為者やハッカー、荒らしの報告・懲罰といった、モデレーション要素の迅速なアクションをサポートします。そして、より安全でバランスの取れたフェアなプレイ環境を維持できるのです」また、豊富なゲーム統計やプレイヤー統計を提供して、それを元にコミュニティコンテンツを生み出したり、エンゲージメントアセットやアップデートに活用したり、ゲーム内イベントを促進したりすることも容易です。この同じレベルの自動化により、プレイヤーの行動から分析と学習が行え、ゲームデザイン・コンテンツ・体験を反復するための、ユーザーの優先傾向とフィードバックを、開発者に提供できるのです。
自動化がプレイヤーコミュニティーに与える影響は、中核的なサポート機能だけにとどまりません。効率的なコミュニティ運営をサポートし、個人個人に合ったコミュニケーション、データに基づく洞察、プレイヤー主導のコンテンツ作成を可能にすることで、より魅力的で協力的なゲーム体験をもたらします。
「最終的に、自動化は、プレイヤーのエンゲージメントと信頼感を高め、集中的なサポートを提供し、その声を増幅することで、プレイヤーのコミュニティにパワーを与えます。自動化を思考的に慎重に活用することで、開発者とコミュニティチームは、合理的で活気に満ちた、参加型のプレイヤーコミュニティを構築し、長期的かつ持続的な成功を収められるのです」
Game Quality Forumのプレゼンテーションから 、自動化が組織のあらゆる分野で利益をもたらすということを学べました。その主な目的は確かに、チームがより思考的で創造的な仕事に集中できるよう、繰り返しの雑務を取り除くことにあるのです。