アートワーク制作
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ゲーム制作全体にわたるイテレーションの標準化
ゲーム開発の世界では、イテレーション(ある工程を短期間で繰り返す開発サイクルのこと)は避けられません。構想から発売に至るまでに、各フェーズにはゲームデザインを洗練し強化する機会があります。しかし、過度なイテレーションはチームの士気を低め、際限のない延期を招き、さらにはゲームの開発断念へとつながる危険性をも孕んでいます。
以下はIGDC 2023 での最近の講演を抜粋したものです。PTWと1518 StudiosのグローバルアートディレクターArturo Pulecioの洞察と、彼のゲームアート制作における20年にわたる経験をもとに、制作パイプライン全体でイテレーションを標準化し、過剰な修正や高速処理を回避し、イテレーションをアーティストにとっての脅威ではなく進歩の基礎として再構築するためのベストプラクティスをお届けします。
時間をかけて改善するためにイテレーションを必要とするプロジェクトと、コミットメントを必要とするチームとの間には、自然な緊張が生じます。しかし、絶え間ない方向転換によって「努力が無駄になっている」と感じることなくコンテンツを完成させるために、デザイナーが必要とする柔軟性と、アーティストが必要とする安定性を、いかに調和してゆけばよいのでしょうか。
どちらの観点もさまざまな制作フェーズにおいて有効であり、イテレーションは確かにリスクにもメリットにもなり得ます。適切な計画とオープンなコミュニケーションがあれば、チームは足並みを揃え、この反復のサイクルを快適に実施できます。
Arturoは、ゲーム制作の典型的なフェーズを緻密に計画します。各フェーズで起こり得る方向性の変化も含め、パイプライン全体を総合的に見ることで、チームはいつイテレーションが発生するか、そしてそれにどう対処するかをよりよく計画できるのです。
各フェーズの自然なイテレーションポイントにより、アートの大幅な修正が発生するリスクが生じます。製品戦略やビジョンの更新は全体を通して行われる可能性があり、各マイルストーンの「達成」などは脆いものです。後に行われる変更は、初期段階で行われた作業に連鎖的な影響を与えるかもしれないからです。
例えば、あるゲームをエッジの効いた大人向けのプラットフォームゲームとして開発し始めたとします。しかしプロジェクトが進むにつれ、弁護士や投資家、パブリッシャーとの取引やコミュニケーションを経て、突然ゲームの描写をより子供向けなものに修正する必要が生じることがあります。つまり、アートスタイルを作り直し、戦闘のトーンを和らげるか、もしくは完全に考え直さなくてはならないわけです。ゲーム内のVFXも、流血を描けない国で発売できるように変更しなければなりません。
これは、ゲームに変更が生じた場合に議論の必要性が生まれる多くの要素を示す一例に過ぎません。このように、プロジェクトの健全性にとっては、あらゆるイテレーションがリスクと利益の両方になり得るのです。
すべてのイテレーションが同じように作成されるわけではありません。変更を2つのサブタイプに分類すると良いでしょう。1つは、これまでの作業を基礎とする建設的な(健全な)イテレーション。もう1つは、先に述べた「大人向けのプラットフォームゲーム」の例のように、過去の取り組みを無効にする破壊的な(不健全な)イテレーションです。
ゲーム開発にやり直しはつきものです。しかし、計画やコミュニケーションが不十分なために不健全な方向転換が起こると、アーティストは自分の仕事が「無駄になった」と、憤りを感じることがあります。
Arturoは、あるゲームの最初のマイルストーンとして、アートチームが美麗なキャラクターたちを完成させたという例を挙げます。さて、このチームはマイルストーン2に到達しています。上層部はこれら一連のキャラクターを長い間見続けているような気がしており、もはや目新しさやフレッシュさは感じません。そこで、彼らは決心します。「もう1回やり直そう。そしてちょっと違う感じにしよう!」と。
この決定はまるで是正のように感じられますが、実際には破壊的なものです。かつ、ゲーム業界ではよく見られることです。アーティストたちは困惑します。3ヶ月前には芸術の頂点に達したはずの、最初のマイルストーンで作成したこの一連のキャラクターたちが、どうして今では、古くて望ましくないとみなされるのか?
アートディレクターに求められる責務のひとつは、瞬間的に現れる気まぐれに注意深くアプローチし、次の新しくて輝かしいものを追い求めるゲームチームの傲慢を抑制することです。プロジェクトを成功に導くことで、全体としてチームが失敗したのだというふうに感じさせないようにしなければなりません。
Arturoは、ゲームアートの変更のきっかけとなる最も一般的な方向転換ポイントについて、次のように説明しました。
また、日々のゲーム制作の課題以外でも、企業関連の意思決定が数多く起こり、ゲームの軌道が変わることがあります。
変化を伴う大きな決定を行う場合、変更の根拠となるコンテキストが欠落していると、チーム間に不満が生まれてしまいます。だからこそ、ゲーム制作のあらゆる段階において、良好なコミュニケーションと計画性が重要になるのです。変更を伝える際に、可能な限り「なぜ」を共有することで、チームが感じる苦痛を和らげられます。
Arturoは、イテレーションの標準化について全員が同じ認識を持てることを目標にし、「アーティストを決定に参加させ」「アーティストの努力を認める」「オープンなコミュケーション」を提唱しています。フレームチェンジとは、アイデアの失敗ではなく、アイデアの「成熟」なのです。ゲームを俯瞰する際に、「必須なもの」と「あれば便利なもの」とを区分けする必要があるのです。
ゲーム開発においてイテレーションは避けられませんが、不健全な変化を緩和することが、ゲームとそのアーティストの内的・外的成功を確保する鍵となります。イテレーションを標準化し、アイデアというものが時間の経過と共に成熟するものだとみなし、過去の仕事を共に積み重ねていると感じられるチームになるには、結束力のあるチームダイナミクスが必要です。それぞれの慣例や取り組みの範囲を規定するために、やり直しの発生を計画に組み込み、部門を超えたフィードバックループを正常化するのです。
ゲームディレクターには、過度なストレスや憤りを招くことなく、イテレーションによって革新が促されるような協力的環境を育む責務があります。これは、これまでにお伝えしたように、「あらゆるフェーズにおけるアーティストとのオープンなコミュニケーション」、「慎重な意思決定」、「アーティストの努力を認め誠実に尊重すること」によって達成できます。
この記事はシリーズのパート1です。パート2はこちら。
1518 StudiosはPTWブランドファミリーの一員であり、ゲーム開発者の制作パイプラインのあらゆるフェーズをサポートする大手アートサービスプロバイダーです。お問い合わせから、あなたの物語を世界に届けるお手伝いをさせてください。