音声制作
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成功の検証:受賞作ゲームタイトルの演技をプロデュースしたSIDEの手法
PTWブランドファミリーの一員であるSIDEは、20年以上の業界経験を持つ音声制作スタジオで、世界中にオフィスを構えています。これまでに音声制作を手掛けたタイトルには、少し挙げるだけでも『Sifu』『Horizon Forbidden West』『It Takes Two』『サイバーパンク2077』『ウィッチャー3 ワイルドハント』『Battlefield 1』『Age of Empires IV』、などがあり、数多くの人気タイトルに携わってきたことが伺えます。
SIDEチームは常日頃から、RPG、ファンタジー、歴史ゲームなど、大規模かつ非常に複雑なゲームプロジェクトに挑戦しています。通常このようなタイトルの登場人物は非常に多く、その数だけの声優をキャスティングしなければなりません。また、キャラクターの人種や民族は様々であるため、それぞれに合わせた適切なキャスティングを行わなければなりません。このような複雑なゲームを他の言語や文化にローカライズするのは、言うまでもなくハードルの高い作業です。最初に、コンテンツに関わらず、適切なプランニングが行われないままでは新規の開発者と仕事を進めるのは困難になる可能性があることをご説明します。
SIDEは長く経験を培ってきたスタジオであり、これまでのキャリアの中でこうしたプロジェクトを数多く見てきているため、対応プロセスを開発、洗練させてきています。それでは、このプロセスについて見ていきましょう。
ゲームの楽しさのひとつに、異文化体験があります。開発者が架空の地名や名前を付けて文化を創作する作品では、リアルに感じられるしっかりと根を張った文化を作り出すのは難しい場合があります。一例として『ウィッチャー』シリーズにはレダニア、スケリッジ、ノヴィグラドといった地域がありますが、これらの地域は必ずしも現実世界と類似しているわけではありません。
こうした世界を表現するため、SIDEチームは開発者に、特定の地域でどのようなトーンを目指しているのかを尋ねました。アクセントをイギリス英語とした場合、「イングランドのみ」なのか、それともスコットランド、ウェールズ、アイルランドのアクセントも含まれるのか、それを明確にしたのです。さらに、SIDEでは幅広いアクセントの収録が可能なため、これを利用してアクセントのバラエティを広げることも提案されました。
そして、SIDEチームは各地域の方言に、それぞれ文化を割り当てて差別化することにしました。レダニア人は北イングランド、スケリッジ人は北アイルランド、ノヴィグラド人は上流階級の英語を話します。仕上げとして、労働者階級の登場人物にはロンドン訛りを割り当てました。国外の開発者はアクセントの違いを聞き取れないかもしれませんが、SIDEは多様なボイスを探し求めてきた経験があるため、シナリオチームへの提案をマッピングし、全ての要素がどのように組み合わされるのかを明確にできます。
『Age of Empires IV』のような歴史ゲームでは、前述の課題とはほぼ正反対の問題が発生します。過去の言語のアクセントを忠実に表現できる声優を探さなければならないのです。プレイ可能な文明には、モンゴル朝、デリー・スルタン朝、アッバース朝などの文明が設定されていました。想像通り、開発側からのリクエストで、現在ではあまり使われていない方言の古語を収録することになったため、SIDEではその言語のエキスパートを確保することが大きな課題となりました。
言語のソースが無いことで、収録はさらに困難なものとなります。しかし、SIDEはモンゴルやトルコ南部などに仮設スタジオを設置し、古い方言を話すことができる学者を探し出すなど、精力的な活動でこの課題に取り組みました。その結果、150人以上の声優が7カ国8言語での収録を行い、歴史に忠実なゲームとして、楽しいだけでなく教養も身につけられるゲームが完成しました。
気付いていない方もいるかもしれませんが、ゲームのサウンドは没入感を生み出す重要な要素です。SIDEが第一次世界大戦を舞台とするゲーム『Battlefield 1』のサウンドを手掛けた際、銃声や弾薬の爆発音だけでは戦場の疲労感やストレスは再現できないと考えました。
SIDEチームは調査を経て、アクションヒーローのセリフではなく、実際の戦争が生身の人間から呼び起こすような絶望的な感情を収録したいと思うようになります。そこで、密閉されたブースで収録を行うのではなく、広大なオープンスペースでの収録に変更し、セリフを言う際に、重い荷物を運んだり、ロープを引っ張り合ったりと、実際に声優が体を動かして演技を行いました。その成果として、疲労感や不安感のある演技、物語を進めるセリフに説得力を持たせることができました。
SIDEは、ナレーションの録音や特殊効果の作成といった業務も行いますが、それ以上に重要なのは、スタジオ設立以来、進化してきたワークフローとプロセスです。厳密で綿密なマネジメント計画がなければ、プロダクションは無秩序で行き当たりばったりになり、発売の遅れや製品の不評を招くことになります。
SIDEでは、ビデオゲーム史上最も大がかりなプロジェクトのひとつ、CD Projekt Redの『サイバーパンク2077』の開発にも携わりました。出演者125名、収録時間は2,500時間、オーディオファイル数は120,000にのぼり、キャラクターは250人、ポストプロダクションには約1,100時間を要しました。この数字を見ただけでも、その複雑さがうかがえます。プロジェクトを順調に進められたのは、SIDEの最適化されたスクリプト開発ツールによる慎重な管理のおかげでした。SIDEでは、当初から納期間近に行うポストプロダクションチームの参加を見越して、作成ファイルのすべてを計上するシステマチックなプロセスで収録を行いました。
スムーズな納品は、継続的な努力と適切な準備の結果であり、偶然に起こるものではありません。それぞれのプロジェクトを型にはめて対処するような方法は、すべてのゲームで上手くいくとは限りません。SIDEではすべてのプロジェクトでソリューションをカスタマイズしています。キャスティングから収録、編集まで、経験豊富なプロフェッショナルが、スケジュールや予算に合わせて丁寧に仕事を進めます。
ビデオゲーム市場は、急速にそのサイズと規模を拡大しています。デジタルでの納品が可能になり、インターネットが使える国であれば潜在的顧客はどこにでも存在します。これまでサービスが十分でなかった国でも、ゲームが制作されるようになるはずです。つまり、これまでの定型とは異なる言語での翻訳、ローカライズ、カルチャライズが必要になってくるのです。
SIDEは、新たな言語や使用頻度の低い言語を扱う場合、まず適切な翻訳が必要であることを理解しています。翻訳の品質が悪いとリライトが必要になり、時間とコストがかかるため、慎重に計画したスケジュールを守ることができません。最初から正しく翻訳するためには、ターゲット言語の言語エキスパートと一緒に作業する価値はあるでしょう。台本は、声優が声を当てた時に自然に読めるものでなければなりません。
また、より重要なこととして、引用、スラング、時には固有名詞さえも、カルチャライズが必要です。不正確な訳出を防ぎ、最悪の場合でも意図せず含まれてしまった不適切な言葉を削除できます。プレイヤーは、たとえゲームの設定が自分たちの文化とかけ離れていても自分たちの文化に近いと感じられるゲームであれば、ゲームを気に入ってくれるものです。
地域やプレイヤーの違いがあっても、演じるキャラクターにふさわしい声優をキャスティングするのが音声スタジオの腕の見せ所です。SIDEでは、年齢、性別、アクセント、トーンなどの基本情報に加え、キャラクターの背景やアートワーク、既存のアニメーション、事前録音された音声など、できるだけ多くの補足資料を声優に提供することが有益であると考えています。SIDE Londonのキャスティングディレクター、Martin Vaughan(CDG)もこう語っています。「CD Projekt Redと仕事をして良かったことは、キャスティングのあらゆる段階においてとても協力的だったことです。初期のキャラクターアート、詳細なバックストーリー、ムービーのラフカットなどを提供してくれたので、各キャラクターの人物像や背景などを把握する際にとても助かりました」
開発者が見落としがちな落とし穴として、ディレクション無しの動画に声優をキャスティングしてしまうことが挙げられます。これでは、プロのディレクション無しに、声優が与えられたセリフをただ読み上げるだけになってしまいます。時間の節約にはなるかもしれませんが、ディレクション無しではプレイヤーに十分な情報が伝わりません。良いディレクションによって、声優がキャラクターに対する適切なアプローチを理解できるため、キャスティングのエージェントが求めるものを声優から引き出すことができるのです。
キャスティング前、あるいはキャスティング中であっても、実際にキャスティングが行われる地域の規制やポリシーを理解しておくことも重要です。声優への出演料や収録を行うことができない時間の長さなど、考慮すべき要素もあります。これらの要素は通常、実際のキャスティングが行われる前に、前もって解決しておきます。
最後に、プロジェクトの成功には、適切なプランニングとタイムリーなコミュニケーションが欠かせません。プロダクションのあらゆる面でスケジュールを組むだけでなく、不測の事態への備えも用意する必要があります。新型コロナウイルスのパンデミック以降、SIDEはプロセスを慎重に評価するようになり、その結果としてチームはより機敏に動けるようになりました。
スタジオと開発者の間には、単にマイルストーンを把握するためだけでなく、クリエイティブな事柄にも開発者が関われるよう、すべての段階でクリアかつ自由なコミュニケーションが大切です。開発者でなければわからないような小さな点が明らかになったことで、脚本が変更になったり、開発側の技術的な問題で納期が大きく変わったりすることもあります。緊密な協力体制は、常に双方の業務にプラスの効果を与えてくれます。
SIDEのテクニカルディレクター、Anthony Halesは、Behind the Glass誌でのインタビューで次のようにまとめています。「コアとなるプロセスは、クライアントと対話しプロジェクトの内容を詳しく聞くことです。その上で、プロジェクトに必要なリソースを算出します。私たちはキャスティング、ディレクション、収録、編集、マスタリング、フェイシャルキャプチャーなどのサービスを提供できます。必要なサービスとリソースを確認できれば、、そのプロジェクトにふさわしいディレクターを提案し、レコーディングに適したスタジオを用意し、ロサンゼルスやロンドンでの収録の必要性を伝えることができます」
ゲームのプロジェクトを最高の形で進めるためには、開かれたコミュニケーション、両者の持てる力への信頼、そして長年にわたって培われた試行錯誤の手法が欠かせません。SIDEが長年数々の賞を受賞していること、そして開発者、パブリッシャー、プレイヤーのすべてがSIDEと関わって幸せになっていること。SIDEのプロセスが成功していることは、それらが証明してくれています。